――なみだのたび――


(透明水彩、パステル、アクリラガッシュ)





血がにじんだひざ小僧を おさえて うわぁんと大きく声あげた
喫茶店の片隅で どうしてと ぽろりと眼から こぼれ落ちた
にぎやかな 教室のなか 入って行けずに 顔ふせた

「どうしてそうなの!」と 金切り声で 叱られた
真っ白いベッドの上で 力なく横たわる姿に ぐっと唇を引きしめた
白い息を吐きながら 縮こまる肩をおさえ
天を仰げば りんと輝く 星がみえた


星をめあてに 船の上 朝焼けのさま 煙草のかおり 網引く音
波 波 よせては返す
駱駝の商隊 マケドニアの軍 馬のいななき ローマの道 エルサレム 羊の群れ
生誕の地 太陽 ぎらぎら照って ぽとりとこぼれ 空へ 空へ

蛇口の水 背中をさすって
コップの氷が からりと 泣いて
雨の日 そこ濡れるよ と声かけられて

シュンシュンと鳴くやかんの音
ぽつぽつと垂れる点滴
踏みしめられる霜柱

雪解け ちいさく おおきく ながれをつくって 波となって
砂漠のオアシス 祝いの美酒 蹄鉄の音 めぐる水路 文化の川 緑の大地
アダムとイブ 林檎 ゆらゆら揺れて ぽとりと落ちる 万有引力



大地を潤す林檎の涙