「たれそかれ」


〈見ようによってはどの人も知った人のごとく、もしくはそれと反対に、
足音の近寄るのを聴きながら、声をかけ合うまでは皆他処(よそ)ひとのように、
考えられるのがケソメキ(*1)の常であった。
 そうして実際又この時刻には、まだ多くの見馴れない者が、急いで村々を過ぎていこうとしたのである。〉



*1……黄昏時のこと。信州よりもやや北での方言。
   〈そしらぬふりして通って行くことをケソケソとして行くといっている。〉




柳田國男「かたはれ時」『妖怪談義』(1997年第1刷、1997年第28刷)